聴覚過敏、触覚過敏など、発達障害にともないさまざまな感覚の受けとり方に偏りがある場合があります。
感覚の違いは日常生活にさまざまな困難をもたらすことがあります。
集団の中でじっとしていられないのにも、聴覚が過敏で音に耐えられなかったり、前庭感覚(後ほど説明)に鈍磨があり刺激が不足して辛いなど、感覚の違いが原因していることもしばしばあります。
爪や鉛筆をかじってぼろぼろにしてしまうのも固有感覚の鈍磨から刺激を求めている行動かもしれません。
なにか困ったことや問題があったとき、お子さんの特性を把握し、その原因を探るのがまず第一歩となります。
感覚の問題は生まれつきその状態なので、本人でも人と違うことをなかなか知ることができません。ですから感覚の違いが原因で困っていることに気付くことも難しいのだと思います。
感覚のことをうまく人に伝えるのは大人であっても困難なこと。ましてやコミュニケーション面で困難を抱える子供たちにはとても難しいことなのです。
感覚の違いを知ることはお子さん本人の困難に気付き、対応や工夫を考えるために大切な情報となると思います。
一番下にちょっと熱くなってしまったツイートを張っています。最後まで目を通していただけるとうれしいです。
どうやって感覚の違いを調べるの?
どの感覚が過敏や鈍磨なのかを調べるために目安としてご家庭でもできるツール「日本感覚インベントリー(JSI-R)」があります。
■JSI-R 発達障害児を対象とした感覚統合検査の一つです
子どもに感覚刺激の受け取り方に偏り(感覚調整障害)がある場合、その傾向が様々な行動に表れてくることがあります。JSI-Rは、このような行動の出現頻度を調べることで、子どもたちの感覚刺激の受け取り方の傾向を把握しようとするものです。 JSI-Rは、「みんなの感覚統合」「感覚統合Q&A」で紹介されている「感覚発達チェックリスト」をこれまでの研究結果をもとに改訂したものです。項目は、前庭感覚、体性感覚、視覚などの感覚機能に関連すると思われる147つの行動項目から構成されています。 JSI-Rでは、結果を3段階評価で解釈ができるように作成されています。この評価尺度は、4才から6才までのお子さんを対象に保護者の方が評定したデータをもとに作成していますが、あくまでも大まかな目安程度のものですとくに対象児童の年齢が4才~6才ではない場合、評定者が保護者ではない場合、その解釈には注意が必要です。計算は、サマリーシートを用いて行います。まず各領域のスコア合計をサマリーシートRaw Scoreに記入します。次に、Raw Scoreを換算表より、3段階評価尺度へ変換します。
こちらのサイトで質問用紙をダウンロードできます。
http://www.atsushi.info/jsi/jsi-r2002.pdf
質問用紙に答えたらスコアを計算しサマリーシートに書き入れます。
http://www.atsushi.info/jsi/summary2002.pdf
(どちらもPDFファイルです)
7つの感覚とその他についてGreen、Yellow、Redの3段階の評価になります。スコアがいくつからいくつまでがどこに当てはまるのかについてはサマリーシートに表があります。
Green:典型的な状態(健常児の約75%に見られる状態)
Yellow:若干、感覚刺激の受け取りに偏りの傾向が推測される状態(健常児の約20%に見られる状態)
Red:感覚刺激の受け取り方に、偏りの傾向が推測される状態。すなわち、ある刺激に対して過敏だったり鈍麻である状態(健常児の約5%に見られる状態)
この質問票は4歳から6歳のお子さんを想定して作られていますが、多少年齢が違っても大きなずれはないでしょうし、それ以外の年齢のお子さんでもその当時のことを思い出してみることで使えると思います。
うちの娘は8歳のころ、この検査を作業療法で受けました。分析は作業療法士の方が行ってくださったのですが、このように一般にも公開されている検査なのでご家庭でも目安として十分使えると思います。
ただ、使用上の注意にも書かれていますが「あくまでも目安」であり、診断が付くものではありません。お子さんの感覚の傾向を知るためのものです。
JSI-Rは、自由にダウンロードして使用することができますが、以下の点にご注意ください。
1)JSI-Rは、単なる行動チェック表に過ぎませんので、この結果だけで、お子さんの状態を判断しないでください。
2)JSI-Rは、あくまでも行動の特徴/特性を捉えるためのもので、行動の優劣を測定するものではありません。
3)JSI-Rは、必ずしも感覚刺激の受け取り方の偏りだけを反映するものではありません。
4)3段階尺度による結果は、あくまで目安程度のものです。
5)感覚統合機能の評価のためには、この評価のみならず他の検査、観察より総合的に判断する必要があります。
6)JSI-Rは、評定者が異なる場合、その結果に差が見られることがあります(例えば、ある児童を保護者と療育者で評定した場合など)。これは、各々の評定者が、対象児童の別の行動側面を把握しているために生じると思われます。対象児童の包括的な理解のために、JSI-Rは、立場の異なる複数の評定者によって施行されることをお勧め致します。
7)JSI-Rを療育(治療)効果測定の手段として用いる場合、同一評定者による結果を用いて比較されることを強くお勧め致します。
最終的な、結果の解釈につきましては、感覚統合に精通している専門家にご相談して頂くことをお勧め致します。
結果をどうみるの?
前庭感覚、触覚、固有受容覚、聴覚、視覚、嗅覚、味覚、その他、総合と評価があります。この中で前庭感覚と固有受容覚という言葉は聞きなれない方も多いと思います。
前庭感覚とは・・加速や回転など動きを感じる感覚
固有受容覚とは・・筋肉や関節の感覚
その他の箇所には質問を読んでいただければわかると思いますが、認知面や体質について書かれています。
各項目においてRedという判定が出た場合、その刺激に対して、過敏か鈍磨かどちらかに大きく偏っているということです。
たとえばうちの娘の場合、
前庭感覚Red、触覚Green、固有受容覚Red、聴覚Red、視覚Yellow、嗅覚Yellow、味覚Yellow、その他Red、総合Red
とほぼ赤い結果がでました。前庭感覚、固有受容覚は過敏ではなく鈍磨が見られます。聴覚は過敏と鈍磨が同居している状態だそうです。
過敏なのか、鈍磨なのかは各項目の質問のどこにあてはまっているかを見ればおおよその見当がつくと思います。
前庭感覚が鈍磨だから動きを感じる刺激が常に不足しています。なのでその刺激を入れるために動くのです。逆立ちなども頻繁にしています。ADHDで多動があるのは感覚として受け取り方の違いが一つの原因だったようです。動いて刺激を入れるのは自分を落ち着かせるための方法なのかもしれません。
固有受容覚の鈍磨から強くかむ刺激を好みます。爪噛みや鉛筆をかじるのも不足する刺激を入れるための行為です。
「前庭感覚・固有受容覚の閾値が高く、強く激しい動きを脳が要求している。その結果、少しの刺激では満足できないため、大きな動きや、 動きの多さが目立つ。前庭感覚では動いて体のバランスを保とうとしている。固有受容覚では、多少の強い力には気づくことが難しい。他者にも力加減の調節が難しく、強めの力で触れてしまう。」
これが娘の結果で伝えられたことです。脳が強い刺激を要求しているのです。
結果をどう生かす?
感覚の問題は本人の努力や我慢でなんとかなるものではありません。成長によって変化する場合もあれば、感覚統合などのトレーニングを受けることで緩和することもあるでしょう。
こちらの評価用紙をつかって分析すればどこを工夫すればよいかわかりやすいと思います。
http://www.atsushi.info/jsi/jsi-s2007.pdf
しかし基本は生まれつき感覚に大きな違いがあることを認め、工夫でなんとか日常生活に適応して生きていかねばなりません。過敏すぎる刺激は出来るだけ避け、不足する刺激は問題のない形に変えて入れていくということです。
聴覚に過敏があればイヤーマフやデジタル耳栓を使う、できるだけ刺激を避けるなどでストレスを軽減していくなど。
私自身、味覚と嗅覚に過敏を持っています。嗅覚のほうはさほど日常生活に影響はしないのですが、他の人があまり気にとめないにおいに強く反応し頭痛がしたりストレスになることも。
味覚のほうは偏食で、未だ食べられないものが多いままです。我慢して飲み込むことは可能でしょうが、苦痛でしかありません。慣れておいしく感じることはありません。栄養バランスが偏らないよう他に食べられるもので補えばよいだけなのです。
娘の持つ前庭感覚や固有受容覚の鈍磨からは、日常生活に大きく影響が出ています。多動やものを壊したり怪我もたえません。集団生活の中や家族と生活するためには困った行動も多く出てきます。
彼女の脳が刺激を求めている状態なので、無理やり止めさせるだけではストレスがかかるだけです。その刺激を別のもので代用する、暴れてはいけない場所といい場所を明確にわけるなどの工夫が必要です。

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カミカミグッズなど感覚刺激を入れるためのグッズもいろいろと売られています。息子はチュアブルネックレスの噛み心地が気に入ったのですが、娘は出し昆布の固さがちょうどよいようです。いつでも食べられるようにしています。
このように不足する刺激をいれることや過敏な刺激をさけることによってストレスを軽減できれば、他の困難の軽減に繋がることもあるのです。
脳の働きの違いによって起きる困難、これは発達障害の特性全般に言えることだと思います。そのひとつとして感覚の問題が多いことを、お子さんの理解へと繋げていただけるといいなと思っています。
こちらは日本感覚インベントリーを作られた太田先生の感覚統合の本です。感覚の発達を助けるためのご家庭でできる遊びや工夫がのっています。
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障害があるかどうかと学校に適応できるかどうかは別の問題であって、傾向はあってもイコールではないわけで。
— なないお (@Nanaio627) 2016, 2月 9
親がちゃんとしていれば全ての問題がなくなるほど一人の人間は単純じゃない。
— なないお (@Nanaio627) 2016, 2月 9
親という立場になっただけで誰もが完全な人間になれるわけじゃない。子供にも多様性があるように親にもある。人間はそれぞれ違って当然だということを、親と名がついただけでないことにしようとする話が多くてうんざりする。
— なないお (@Nanaio627) 2016, 2月 9
障害児を育てる親の間でも、周りに迷惑をかけるタイプのお子さんとそうでないお子さんの保護者の間で、親がちゃんとしていれば迷惑をかけないように育てられるって話、これって差別と同じ匂いがするんだけど。
— なないお (@Nanaio627) 2016, 2月 9
うちの子らは障害児でも学校で授業を妨害するようなこともないし、息子は暴れる子がいるので学校に行かないと言い出すくらい。逆の立場ではあるけども、これは「たまたま」うちの子らがこういう性質だっただけだ。
— なないお (@Nanaio627) 2016, 2月 9
娘に対しては就学前の療育で授業中に適応できるようにトレーニングはした。その効果ももちろんあった。でも同じ訓練を受けたお子さんがみんな同じように適応できているわけでもない。これはうちの子供の性質とマッチングしただけのこと。
— なないお (@Nanaio627) 2016, 2月 9
親として出来ることもある。自分のキャパの中で手は尽くしている。でもそれだけで全ての問題が解決できるわけじゃない。一人の人間が自分と違う人間の全てを制御できるなんて大きな驕りだ。
— なないお (@Nanaio627) 2016, 2月 9
親次第で子供の全てをコントロールできるなんて子供を一人の人間として見ていないのか馬鹿にしているのかとしか、私は思えない。
— なないお (@Nanaio627) 2016, 2月 9
だからこそ、学校や支援者や、社会全体のリソースを使ってチームで支えていく必要があるんじゃないのかな。家庭という小さい中には限界もあるしいろんな面での危険も大きい。
— なないお (@Nanaio627) 2016, 2月 9
おそらく私があのまま何も知らず家庭の中だけで娘を育てていれば虐待に走っていただろうと思う。今まで周りに助けを求め支援者や医療とつながり学校と繋がって多くの人々に支えられてきたからうちの子供たちの今がある。
— なないお (@Nanaio627) 2016, 2月 9